Native Instruments(NI)のソフトシンセ「FM8」。
FM方式のシンセは、一般的に操作するのが難しいとされるのにも関わらず、高い評価を得ているこのシンセの人気の理由を探るために、改めてレビューを行いました。
また、アップデートを繰り返してきたプラグインの最新版の動作確認を行い、音質・機能・CPU負荷などを評価し、2020年現在でも使う価値があるのかどうかをジャッジしてみました。
この記事は、DTM歴7年で楽曲のリリース経験もある現役トラックメイカーDTM部長(@dtmbu)が書いています。
- FM8ってどんなシンセ?なぜ人気があるの?
- 音質・機能・CPU負荷はどんな感じ?
Contents
FM8とは?
「FM8」とは、ドイツのNative Instruments社が開発しているソフトシンセです。
80~90年代に爆発的人気を誇った「YAMAHA DX7」をモデルにして設計されたFM方式のソフトシンセです。
一般的に操作が難しいFMシンセですが、見やすいGUIと操作をサポートする機能によって比較的音作りがしやすいため、世界中で人気があります。
また、アルペジエイターが高機能なので、FM8だけで本当に幅広いフレーズが作れてしまいます。
スペック | 内容 |
---|---|
価格 | 20,100円 ※2020年5月時点(最新価格をチェック) |
発売時期 | 2006年 |
音源方式 | FM方式 |
プリセット音色 | 1,200以上 |
オシレータ (オペレータ) | 6基+ノイズ1基 32以上の波形 |
フィルター | 1基 |
エフェクト | 12(同時使用可能) |
なお、「シンセの方式の違いって何?」という人は、以下の記事を参考にしてみてください。
それでは、このソフトシンセについてレビューした結果を解説していきます。
FM8の音質の特徴は?
FM8の音質の特徴を知るために、まずはモデルとされているYAMAHAのシンセ「DX7」のサウンドを聴いてみてください。
こちらは、誰もが知っている1980年代のヒット曲「a-ha – Take On Me」です。
頭から入ってくるギラついたシンセの音が、まさにFMシンセのサウンドです。
そもそもDX7が流行ったのは1980~1990年代なので、ちょっと古い曲になりますが、もう少し新しい使い方も紹介します。
以下の動画は、テクノ・エレクトロニックミュージックのアーティストで、テクノデュオ「Lakker」のメンバーでもある「Eomac」が実際にFM8を使ってワークショップを行っている動画です。
彼は、このシンセに搭載されているノイズオシレーターとFM合成を利用して、ザラザラとしてパワフルなテクスチャを作りだしています。
このように、FM8は、どちらかというと曲の中で目立つ、刺激が強めなサウンドを得意としています。
chat face=”JET_アイコン.jpg” name=”DTM部長” align=”right” border=”none” bg=”yellow” alt=”DTM部長”] もちろん、柔らかなパッドも作ることもできます。 [/chat]
FM8を使うメリットは?
それでは、概要が分かったところで、実際に使ってみて、「コレ、良いな!」と思ったポイントについて、より詳しく解説していきます。
- FMシンセなのに使いやすい
- 軽くて動作が安定している
- アルペジエイターが高機能
① FMシンセなのに使いやすい
FM変調により音を合成して音作りを行うFMシンセは、オシレーターどうしの変調パターンを組み立てていくのがとても大変です。
しかし、FM8はFX合成のマトリックスが見やすいデザインになっていたり、「Easy/Morph(イージー・エディット・ページ)」という、4つのプリセット音源を選んでノブを操作するだけで、簡単にFM合成ができる機能が搭載されているため、比較的操作しやすいです。
② 軽くて動作が安定している
DAWで使ってみたときに一番驚いたのが、その負荷の軽さでした。
実際に、DAW上でプラグイン1台を起動して演奏したときのCPU負荷は、ほとんどが1%で、重いプリセットでも2%を超えることはありませんでした。
起動も速く、Ableton Liveの付属プラグイン(軽いことで有名)に負けず劣らずという感じです。
③ アルペジエイターが高機能
もうひとつの魅力が、高機能なアルペジエイターです。アルペジエイターというよりは、むしろステップシーケンサーのような使い方ができます。
具体的には、ランプをクリックしてノートの発音をON/OFFしたり、メロディーのシーケンスを組むことができます。
実際に、ファクトリープリセットを試聴すると分かりますが、このステップシーケンサーによって、フレーズ作りのアイディアを飛躍させることができます。
FM8を使う上での注意点は?
次に、購入を考えている人のために、買う前に注意しておきたいポイントについてご紹介します。
- 狙ったサウンドを作るのは難しい
- ワブルベースのようなウネる系の音は苦手
① 狙ったサウンドを作るのは難しい
より簡単な操作で、感覚的に音作りができるように設計されていますが、頭に描いたサウンドを簡単に表現できるのかと言えば、そういうタイプではないです。
このシンセに限った話ではないですが、FMシンセは、オシレータ同士を変調させたときに、どのような音になるのかを予想するのが難しいです。
そのため、最初から頭の中に描いたサウンドを狙って作れるようになるためには、相当な経験と勘が必要になると思います。
② ワブルベースのようなウネる系の音は苦手
先ほどと似た話ですが、基本的なシンセの仕組みの違いとして、このシンセには、流行りのウェーブテーブル方式で音作りをする機能はありません。
そのため、ワブルベースのような、動きのある音を作るのは難しいといえます。
逆に、ギラついた金属的なニュアンスの音に関しては、とても得意です。
FM8の評価は?
実際に制作でこのシンセを使っている人は、どんな風に活用したり、どんな感想を持っているのかについて、Twitterから意見を拾ってみました。
FM8の無料お試し方法は?
このシンセは、ユーザー登録不要でデモ版をお試しすることができます。
ただし、プリセットの保存ができないのと、30分に1回再起動が必要になるという機能制限があります。
- デモ版のダウンロードとインストール
- DAW上でプラグインを起動
① デモ版のダウンロードとインストール
FM8のWebサイトにアクセスして、[デモ]をクリックします。
メールアドレスを入力して[GET DOWNLOAD LINK]をクリックします。
入力したメールアドレスに届いたメール本文にあるURLをクリックします。
するとブラウザが開いてダウンロードページにアクセスするので、お使いのOSに合ったものをダウンロードします。
ダウンロードした.zipファイルを解凍して、.exeファイルを実行してFM8のデモ版をインストールします。
② DAW上でプラグインを起動
インストールが完了したら、お使いのDAWを立ち上げてプラグインを起動します。
同時に表示されるウィンドウで[Run demo]をクリックするとデモ版として動作します。
なお、このとき、プラグインフォルダにFM8が表示されていなかったり、上手く起動できない場合は、以下の記事を参考にして設定を見直してみてください。
FM8の使い方は?
それでは、このシンセの操作方法について、なるべく簡単に解説していきます。
より詳しく知りたい人は、FM8の公式マニュアル(英語)を参照ください。
- プリセットの選択
- 画面表示の設定
- オシレーターの使い方
- フィルターの使い方
- エフェクトの使い方
- モジュレーションの使い方
- アルペジエイターの使い方
① プリセットの選択
プリセットを選択するには、画面左側のナビゲーターメニューにある[Browser]をクリックします。
あとは、File Browserを見てフォルダを選択していくだけです。また、🔍(虫眼鏡)マークをクリックすると、キーワード検索も可能です。
② 画面表示の設定
画面サイズの変更メニューはなく、スキンも1種類のみです。
ただし、操作画面とキーボードは、それぞれ表示・非表示を切り替えることができます。
③ オシレーターの使い方
ナビゲーターにある[Ops]をクリックすると、オシレーターの一覧画面が開きます。
オシレーターが6基(A~F)搭載されており、画面右側のMatrixで、各OSCを接続してFM変調させることができます。
個別のオシレータの設定
[A]~[F]のいずれかをクリックすると、それぞれ個別のオシレーターの設定画面が開きます。
32種類から波形を選択したり、エンベロープを設定することができます。
FM Matrixの使い方
FM8において最も重要な、「FM Matrix」の見方について説明していきます。
まず、各アルファベットは以下のユニットを表しています。
A~F | オシレーター |
---|---|
X | ノイズ |
Z | マルチモードフィルター |
IN | 外部入力オーディオ |
マトリックスの一番下の2段がOutput(上段:音量、下段:PAN)になるので、ここにルーティングすると音が出ます。
ルーティングの方法は、クリックしたまま上下にドラッグするだけです。
各ユニットは、右クリックでON/OFFを切り替えられます。
そして、各ユニットをルーティングさせることで、オシレーターどうしでFM変調をかけることができます。
また、ダブルクリックでルーティングを解除することもできます。
④ フィルターの使い方
ナビゲーターにある[Z]をクリックすると、フィルターの設定画面が開きます。
パラメータを設定したら、FX Matrixで、オシレーターが、[Z]を経由してOutputに接続するようにルーティングします。
⑤ エフェクトの使い方
ナビゲーターから[Effects]をクリックすると、エフェクト画面が開きます。
左側のランプをクリックすることでエフェクト適用のON/OFFを変更することができます。
なお、エフェクトを適用する順番を入れ替えることはできないようです。
⑥ モジュレーションの使い方
ナビゲーターから[Mod]をクリックすると、モジュレーションのマトリックス画面が開きます。
LFOが2基搭載されており、それぞれのLFO波形を選択することができます。
アサインはマトリックス上で線を接続することで適用できます。
見た目はややこしいですが、全てのモジュレーションが1画面で見れるので、慣れてくると、非常に見やすいと感じると思います。
⑦ アルペジエイターの使い方
ナビゲーターから[Arpeggiater]をクリックすると、アルペジエイターが開きます。
FM8のアルペジエイターはとても高機能で、アルペジエイターというよりは、むしろステップシーケンサーです。
ランプをクリックしてノートの発音をON/OFFしたり、Note Orderでメロディーラインを設定することができます。
まとめ
Native InstrumentsのFMシンセ「FM8」について、その音質・機能・CPU負荷などを評価しました。
この記事で解説した内容のポイントをまとめると、以下の通りです。
- FM8とは、Native InstrumentsのFMシンセ。
- 音作りをサポートしてくれる機能が充実しているため、FMシンセにしては操作しやすい。
- 軽くて動作が安定しているのでストレスにならない。
- アルペジエイターが高機能でとても使える。
- 購入する前には、FMシンセがどういうものなのかを理解しておくべき。
結果としては、「今でも購入する価値は十分にある。ただし、FMシンセのサウンドを自分が求めているかどうかを事前に確認しておくべき」というのが結論になります。
また、FMシンセ自体が他のシンセとは違って特殊なタイプなので、初心者の最初の1台として購入する場合などは、後で後悔しないためにも、その辺りを踏まえた上で購入を検討してみてください。
なお、他にもおすすめが知りたい人は、以下の記事もご覧になってみてください。