音楽制作の現場で使われる「マスタリング」という用語。
マスタリングは音楽制作において、必ず行われる作業ですが、「具体的にどのような作業なの?」という人へ。
また、「ミックスとマスタリングって何が違うの?」という疑問を持たれている人も多いでしょう。
良い楽曲を完成させるためには、ミックス・マスタリングそれぞれの目的と役割を正しく理解することが大事です。
そこで、DTM歴7年で楽曲リリース経験もある現役トラックメイカーが、音楽制作におけるマスタリングの内容やその重要性について解説します。
- マスタリングとは?何のために必要なの?
- 良いマスタリングとは?
- マスタリングのやり方は?
Contents
マスタリングとは?
ミックスによって作られた2mixの音量・音圧・音質を、最終調整し、コピーして配布するCDやレコードなどの媒体で聞くために最適化する作業のことです。
マスタリングの作業内容を、より具体的に理解してもらうために、音楽制作におけるミックスとマスタリングそれぞれの役割を比較しながら説明します。
ミックスとマスタリングの違いは?
ミックスでは、各トラックの音を調整することで、楽曲全体の音色や聴こえ方を大きく変えることができますが、マスタリングは最終調整のみで、音色や聴こえ方を積極的に変えることはありません。
ミックスの目的
ミックスとは、複数の録音トラックの音を個別に調整して、一つに混ぜる工程です。
単純に複数の録音トラックを1つのステレオトラックにまとめるだけではなく、完成した2mixが気持ちよく聴こえるように、ミックスの段階で、各トラックの音を調整します。
ほとんどのアーティストは、この作業を自分達で行っています。
マスタリングの目的
マスタリングでは、ミックスによって作られた2mixの最終調整をします。
多くのアーティストは、この作業を専門のエンジニアへ依頼しています。
依頼する場合も、過度の期待は持たずに、艶出し程度のものだと思っておいてください。
「ミックスがなんかイマイチだけどマスタリングで何とかしてもらおう」というのはNGです。
良いマスタリングとは?
良いマスタリングとは、2mixの段階で作り込んだ音のバランスが崩れることなく、適切な音量・音圧に仕上がっている状態のことです。
一方で、「マスタリングで、とにかく音圧をあげたい!」と思っている人も多いです。
それもそのはず、ポップスなど近年の商業音楽では、ほとんどの曲が音圧が高くなるように仕上げられているからです。
そもそも音圧とは?
音圧とは、単純な音量とは違い、「聴覚上、実際に聞こえる音の大きさ」のことです。
「音量」は瞬間的なピーク値も含めた最大値のことですが、「音圧」は平均音量のことを表します。
楽曲を聞いたときに「この曲、音デカイな!」と感じるのは、平均音量が大きい曲です。
音圧は高い方が良いのか?
人は大きな音であれば、良い音だと錯覚するため、コマーシャルとして印象付けるには、音圧が高い方が良いです。
ただし、音圧を上げ過ぎると、代償として、音質やダイナミクス(音の強弱表現)が劣化します。
個人で音楽鑑賞する場合は、音量を上げれば済むだけの話ですが、YouTubeなどで動画を公開したときには、大きい音であるほど印象に残りやすいです。
YouTubeを見ているときに、たまに広告が爆音で流れてビックリしますよね。
商業音楽では、売り上げこそ全てなので、音質を少し犠牲にしてでも音圧を上げることを優先します。
マスタリングのやり方
- 音量・音圧を整える
- 音質を整える
① 音量・音圧を整える
マスタリングの一番の目的は、2mixの音のバランスを崩さないように、音量・音圧を適切な値まで整えることです。
そのため、一般的に2mixのマスターレベルは、0dbに対して、かなり余裕を持たせた値(-6db程度が主流)に仕上げます。
マスタリングを業者に依頼するときには、業者から「2mixを-○○dbに仕上げて送ってくれ」という感じで依頼があります。
マスタリング業者はその2mixについて、コンプレッサーやマキシマイザーなどのダイナミクス系プラグインを使い、音が劣化しないように音量・音圧を上げていきます。
コンプレッサー | 瞬間的に音量が上がっている部分を圧縮して波形を整えます。 |
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リミッター、マキシマイザー | コンプレッサーと同様ですが、特に音圧を上げるために使います。 |
また、アルバムとして仕上げる場合は、それぞれの楽曲の音量が均一になるように全体のバランスを整えます。
0dbに対してほとんど余裕のない2mixでマスタリングを依頼すると、「え?え?何をして欲しいの?」となるので気をつけましょう。
② 音質を整える
楽曲の音量・音圧を上げると、全体のバランスが崩れたり、音が歪んだりします。
そのため、マスタリングの工程では、イコライザーなどの音質を調整するプラグインを使って、崩れたバランスを修正していきます。
一般的には、まず仕上がった2mixを最初から最後まで通して聴いてみて、修正が必要になりそうな部分を見つけることから作業を始めます。
イコライザー | 音質を調整します。 |
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サチュレーター | アナログ機材特有の自然な歪みを加えるために使います。 |
ステレオイメージャー | ステレオ感を持たせるために使います。 |
マスタリングで音圧を上げられない場合がある
2mixの状態によっては、マスタリングの段階で音圧を上げることができない場合があります。
というのも、ミックスが上手くできていないと音圧は上がらないのです。
ミックスが上手くできていないと、マスタリングで音圧を上げるために、コンプレッサーやマキシマイザーを掛けても、音が歪み過ぎて、とても聴けるような品質ではなくなってしまいます。
そのため、マスタリングエンジニアによっては、
ということになりかねません。
あるいは、その2mixでできるところまで仕上げて完成させちゃうという感じになるでしょう。
そのため、DTMerにとっては、マスタリングよりもミックスの方が重要な作業になります。
「ミックスの段階で満足いってなくても、マスタリングで劇的に変えられる!」なんてことはありませんので、そこは肝に銘じておきましょう。
まとめ
今回は、音楽制作の工程におけるミックスとマスタリングそれぞれの役割や、マスタリングの作業内容について解説しました。
また、音楽業界では、音圧戦争を避けることはできないという事実についても触れました。
この記事で解説した内容のポイントをまとめると、以下の通りです。
- マスタリングとは、2mixを最終調整する艶出し作業。
- ミックスがグダグダだとマスタリングもグダグダになる。
- 音圧を上げたいならミックスを見直そう。
ミックス・マスタリングそれぞれの役割を正しく理解して作業を行い、納得できる楽曲を作れるようになりましょう。